ひねもすのたり

読書レビューです。あくまで一個人の感想として読んでいただけたら幸いです。

ストーリー・セラー/有川浩

有川浩さん(以下敬称略)との初めての出逢いは、図書館戦争でした。

そもそも私の小説デビューは母の影響を強く受けたもので、当時の私は母の好きな作家である宮部みゆき畠中恵の作品(しかも時代物)をメインに読んでいました。

そんな中で、兄が買ってきて、一巻のみで放置していた「図書館戦争」を手に取り、その面白さに感動し、瞬く間に全巻揃えました。ついでにその中で登場する「レインツリーの国」も読みました。

しかし私の「有川熱」はそこで中途半端に途切れてしまいました。丁度、「植物図鑑」を読んでいる最中でした。どうしてだったかは今はもう思い出せないのですが、恐らくそのくらいの時期に私は、小野不由美十二国記シリーズや、綾辻行人の「Another」に出逢ったから、だったような気がします。あそこの夫婦は私の心をいつも鷲掴みますが、話が逸れてきたのでその話はまたいつか。

 

トーリー・セラー自体は、中学の時に有川ファンの友人の勧めで知っていて、ずっと気になってはいたのですが、なかなか手に取る機会に恵まれず、やっと図書館で借りるというカタチで実現しました。

 

有川浩は、その話のテンポの良さが特徴だと思います。堅苦しい文章も嫌いでは無いし、寧ろ好きですが、有川浩のコミカルさや親しみ易さもまた、なかなか魅力的だと思います。

 

トーリー・セラーは2編構成で、作家である妻を喪う夫の話(side.A)と、夫を喪う作家である妻の話(side.B、単行本書き下ろし)が収録されています。

どちらの夫婦もお互いを尊重して愛し合っていて、妻ないし夫の難病、そして死と向き合う姿が綺麗に描かれています。

 

side.Aでは、どちらかというと、病を発症するまでの過程をメインに、side.Bでは、病を発症してからの姿をメインに書かれているように思います。

二つの夫婦に共通しているのは、作家である妻の作品を夫は世界一愛していて、妻は夫に読まれることを最高の喜びとしているところ、だと思います。

有川浩の恋愛の描写は、甘々で、実は私はそれほど得意じゃないのですが(ミステリや冒険物、時代物ばかり読んでいるので...笑)、この作品の愛の在り方と描写は、「なんかいいなあ…、羨ましいなあ...」と素直に思えました。

作家にとって、作品とは一番脆い部分を曝け出したものだ、と作中で語られている(大体の意味として思ってください…)ように、それは作家さんにとって、きっと、恥ずかしくて恐ろしくて、けれどもやみつきになる程快感の伴うことなんだろうな、と、想像でしかないのですが、そんなことを思いました。そしてそれを全肯定してくれる夫に対して、どれほど深い愛情が生まれるのだろう、と。

 

物語を愛する人はきっと世界に山ほどいます。けれど、物語に愛される人は、きっと一握りしかいない。物語を愛する人は物語に愛されたいと願って、けれど殆どの人はその淡い恋情を打ち砕かれて、結局は自分の欲求を満たしてくれる作品を読み尽くすしかないのです。

 

今回は、そんな、私の読書観を揺さぶった作品の紹介でした。

そして、かく言う私も、物語に愛されたいと願う一人なのです。